「ちりとてちん」?
実は落語の演目です。三味線の音色から取られた“微妙な”食材(?)「ちりとてちん」。
噺家の目から見た“食”の話題を取り上げてもらいます。さて、どんな話が飛び出すのやら・・・

「落語のネタ帳・食べ物編…その2」

 清八でございます。

  久しぶりに噺家に戻ります。道路公団総裁解任やら選挙といった、うっとうしい日々が続いておりますので、こんなお話はいかがでしょうか。わたくしがオチ研時代ですから、もう28年も前ですが、月に一回は高座にかけていたのが「ぜんざい公社」という新作落語です。当時は、大阪・道頓堀にありました「角座」で平成5年に亡くならはった桂春蝶さんが、よく演じられていました。

 JR・JT・NTTなどが民営化する前のお話なのですが、国が財政に困って国営の事業をするようになります。例えば、国営のスナック、国営の喫茶店、国営のうどん屋、国営のぜんざい屋、これが「ぜんざい公社」です。最近、町内にオープンしたので、どんなお店なのか興味を抱いてしまった善意の男が体験するドラマなのです。

 店に入ると、受付の係官に「並のぜんざいか、特別のぜんざいか」尋ねられます。「特別製はどんなんですか」と質問すると「砂糖を中国から輸入して、小豆はカナダから、お餅は岡山から取り寄せます」という答え、注文したかったのですが、約一ヶ月後という事なので諦めて並を頼みます。それなら三番の窓口で書類を作成するよう指導されます。住所・氏名・生年月日・職業を書くと、「身分を証明できるもの、印鑑はお持ちですか」。

何とか、拇印で堪忍してもらうと、銀行の窓口で書類作成の手数料を払わされ、戻ってくると、今度はぜんざい代の請求、思わず「同んなじ所、行かすんやったらいっぺんに言うとくんなはれ。そら、あんたはよろしいで、そこ座って、あそこ行け、向こう行け言うてたらええのやから」ぼやきながら、「それで、ぜんざいの代金は、なんぼだんねん」「2500円です」「いえ、特別製ちゃうんです、並みのぜんざいですが…」「ですから、2500円です」「止めるわ」「お食べになりません…」「お食べになりません。民間のぜんざい屋行くわ、自分でつくるわ」「あなた、こういう事ご存知ですか、あなたと当ぜんざい公社とは、すでにぜんざいの売買契約が成立しております。ここに、あなたの拇印も押してあります。ここでお止めになると、ぜんざい法第3条第1項契約不履行により、懲役三週間…」「払うわ、払う、食べます、あほか、何でぜんざい食べに来て、刑務所に入れられなあかんねん…」

支払ってくると、「あなた、このぜんざいの中にお餅入れますか?」「はい、できたら入れて欲しいんですけど」「はい、わかりました。で、このお餅なんですが、生でお食べになりますか?お焼きになりますか?」「できたら焼いて欲しいんですけど」「はい、わかりました。焼き方に三通りございます。ガス・電気・炭、どれになさいますか?」「どれで焼いてもろても結構で…」「お焼きになると言う事になりますと、消防署の許可が必要になりますので、三階へ行って許可証を…」「焼かんでええわ、生でかしるわ」「生でお食べになるのはあなたのご自由なのですが、医者の診断書が必要になりますので五階の診療所で健康診断をお願いします」このようなやりとりが続き、やっと、二階の食堂までたどり着くことができます。

「わぁー、きれいな食堂やな。やっぱ、国営だけあって。えーと、ウェイトレス、ウェイトレス…、ねえちゃん、ねえちゃん…」「ねえちゃんとは何ですか。国家公務員とおっしゃい」「すんません、国家公務員さん、並みのぜんざい一杯お願いします」「お待ちどうさまでした」「うわぁー、来た、来た、どんなぜんざいやろな。箸袋に何か書いてあるで。何々、今日も元気だ、ぜんざいがうまい!どっかで聞いたキャッチ・コピーやな。さて、どんなぜんざいやろな、2500円も払うて、健康診断までして、胃のレントゲンまで撮られて レントゲン代まで入れて1万円も払わされてんのやからな。ええ器使うてるな、大きいな、2500円だけあって…。このフタ開けたら、中にはさぞ甘い汁がたっぷり入ってんのやろな、甘い汁が…、あれ、何も入ってないで、ぜんざいに甘い汁が無かったら、ぜんざいやあれへんがな。ちょっと、国家公務員さん、国家公務員さん、このぜんざいに甘い汁が入ってまへんで」「当方は役所です。甘い汁は先に吸うております」

すごい噺でしょ。最初のバージョンは明治時代と言われていますので、いかに「甘い汁」が永遠のテーマであったかという事です。落語ってすごいでしょ。

 「ぜんざい」と言えば、沖縄バージョンをご存知ですか。沖縄ではぜんざいと言えば、「氷あずき」「小豆フラッペ」なんです。あったかいぜんざいは「熱ぜんざい」「ホットぜんざい」と注文しますので、ご参考に。(こんな事知ってても、自慢にもなりませんが…)

2003.10.27


38年間、お付き合いしている長野市戸隠の森の喫茶店です。


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