「ちりとてちん」?
実は落語の演目です。三味線の音色から取られた“微妙な”食材(?)「ちりとてちん」。
噺家の目から見た“食”の話題を取り上げてもらいます。さて、どんな話が飛び出すのやら・・・

 

 

「アラン・デュカスの映画から、クリスマスプレゼントと
お年玉をいただきましたー」

 

 清八でございます。
 12月23日、浜松市中区田町のシネマイーラで、「アラン・デュカス 宮廷のレストラン」(画像①、②)を観ることができました。このシネマイーラですが、2008年12月5日開館で10周年のパーティが12月16日に開催されたのですが、私の主催しています新居・寄席あつめの会の「第83回本果寺寄席・第五回桂伸三の会」を開演していた為、欠席させていただきました。お祝いを兼ねて、10周年記念誌に寄稿させていただきました。実は、私は、落語と出会う前に映画に出会いました。紙面の都合で半分割愛されていますので、ここに全文を掲載させていただきます。

 私は、現在64歳ですが、映画館では親父の背中越しに三歳から観ていましたので鑑賞歴61年になります。高校生の頃から浜松市内で単館映画を観るようになりました。当時の板屋町会館、児童会館、スバル座、テアトル有楽、そしてムーンライトシアター、殆どの作品は観させていただけました。東映劇場閉館後は名古屋まで出向きました。嬉しいことに、その年の12月からミニシアターとして開館してくれましたね。さっそく夫婦で入会して早や10年、これまでの鑑賞本数は240作品になりました。本当に、ありがとうございます。シニアになって鑑賞本数は増えております。私は英語圏以外の国の作品を好んで観てきました。マスコミが報道してくれない状況が、映画の中には「真実のチラリズム」として、存在しているからです。一つ、リクエストさせて下さい。ムーンライト時代に上映してくれた「赤い薔薇ソースの伝説」。メキシコ映画の名作です。

 ソルトの愛読者、関係者の方には分野が異なるとは思いますが、この「真実のチラリズム」、落語の中にも料理・飲食店・厨房・「食」の中にも、いろいろと含まれて登場してくれるのです。

 本題に戻します。この映画は、アラン・デュカスがヴェルサイユ宮殿内に「王の食卓」を再現する初のレストラン「オーレ」をオープンするまでを追った2年間の記録です。料理またはシェフのドキュメンタリー映画と言えば、2011年「エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン」、「二郎は鮨の夢を見る」、2014年「99分、世界美味めぐり」、2015年「ノーマ、世界を変える料理」、2016年「世界が愛した料理人」など、次々と頭の中によみがえってきます。そして、真打がアラン・デュカスでした。場所、建物、厨房、客席、16世紀のメニュー再現、食器・調度品の再現、新しい味・触感・イメージを豊かにするためもあり、世界中を飛び回り丁寧に食材を探しつつ、ヴェルサイユ宮殿の敷地内で野菜を育て、正に地産地消を実現するためにスタッフを育て、シェフを養成していくプロデューサーでした。

 映画は、正式オープンの前の関係者用の試食会で終わりました。それは仕方のない事でしょう。カメラを入れられない、映っては失礼にあたる方々の美食会なのですから。私も私の奥様も逆立ちしても、この「オーレ」でランチも食せないと思います。ドレスコードで無理だし、お金もありません。でも私が、この映画で見つけたり、教えられたりした事は、日本国内でのこれからの食体験に非常に役立つと思いました。惜しまれてこの世を去ったジュエル・ロブションも同様でしたが、和食に好意的に興味を持たれ、定期的に東京・京都に来られ、来日の頻度が増す毎に小さなカウンターだけの割烹、和食でのみ使われる食材、調理法に興味を持たれていた事です。おそらくは10年以上前から、ファーストフードやジャンクフードに使われる食材を否定し、アメリカやオーストラリアの肉中心の料理から、地産地消の野菜・山菜料理にシフトされていたと思います。素材をとことん大事にする。食べられる食材を無駄にしない、無駄に扱わない。環境に配慮した食材、調理法を選ぶ。夢のようなレストランを完成させオープンさせた事よりも、こうした「食」に関わる文化、感性、スタンディングオベージョンの方でした。

 弟子の一人が巣立っていく日、これまで書き溜めたノートを破ってしまい「このノートを持っていると、いつでもこの答えの料理しかできなくなってしまう。貴方の舌と触感で料理をつくりなさい」と言ったエピソード。フィリピンで孤児を養っている神父に協賛して、毎年、調理師学校に無償で受け入れ、プロのシェフに育てているエピソード。リオのオリンピック村で残った食材で現地の低所得者のために料理して提供したエピソード。日本でも規模は異なっても20年前、30年前には聞いたような覚えがあるエピソードでした。

 23日の観客は、うちの奥様を含めて8名でした。実に、贅沢で優雅、気分が爽快になった作品でした。飲食業、レストラン、調理、食材といった目に見える物よりも、尊厳な人間の生き方を教えていただきました。現在、飲食業に携わっておられる方、現在、調理師学校やお店で修行されている方、この映画は「今後10年間の飲食業の教科書」です。DVDになったら、必ず観て下さい。もし、私が文科大臣か文科省の霞が関職員だったら、予算化して家庭科の教材にして、全国の小学生高学年と中学生に家庭科の時間に観ていただきます。いかに人間の感性、食文化、口に入るものを探し見つけ、育ててきたか、よくわかってくれると考えるからです。

 今年、私は、25年ぶりに農文協の全集を購入するようになりました。86年から93年にかけて農文協から出版された「日本の食生活全集・全50巻」(画像③)を購入していました。当時の農文協さんの方針で、世代交代によって伝えられなくなってしまった大正から昭和初期の日本全国の家庭料理を現地のお婆ちゃん達に聞き書きする形で、レシピと和食文化を残していこう、という事業でした。私が全巻購入して読破できたのは、大正末期・昭和初期に国内自給で約1000種類の食材があり、様々な調理法で作られ、食べられていたという事実を知って、はまってしまったからなのです。町内で個人として全巻予約したのは私一人だけだったようで、当時の編集者が取材に来られました。「何か、研究されているのか?料理関係者ですか?」という質問をされました。日本調理科学会が2012年から昭和35年から45年までに地域で食べられていた家庭料理、全国1900食のレシピとその背景をまとめてくれました。昨年11月から出版が始まった「別冊うかたま 伝え継ぐ日本の家庭料理」全16巻です。(画像④)これまでに、「すし」「魚のおかず」「肉・豆腐・麩のおかず」「野菜のおかず」「小麦・いも・豆のおやつ」が発行されました。全国47都道府県で、これから100年間使えるレシピ、すべて、地産地消の食材で和食です。

 私は戸籍年齢では、また一歳、加わります。自由に使える時間は増えていくのに、自由に使える現金は減ってます。もう、新しいお店を見つけても飛び込めないし、東京や京都のお店にも頻繁に行けないし、このコラムも卒業かな?と、一人で考え込んでいましたが、この映画のおかげで、まだまだ書けるネタがあることに気づきました。どうか、これからもお付き合い願います。

 

画像① 画像② 画像③
     
画像④    

 

アラン・デュカス
http://www.ducasse-movie.jp

農文協       
http://www.ruralnet.or.jp

 

2018.12.27 清八



37年間、お付き合いしている長野市戸隠の森の喫茶店です。


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