「ちりとてちん」?
実は落語の演目です。三味線の音色から取られた“微妙な”食材(?)「ちりとてちん」。
噺家の目から見た“食”の話題を取り上げてもらいます。さて、どんな話が飛び出すのやら・・・

 

「2024年、アフターコロナのエトセトラを報告?します 1月篇」

 

 清八でございます。本年も、よろしくお付き合い願います。毎月、「食」に関する書籍・漫画・DVDなど、主に中古品を探しては買い求め、読んだり、観たりして学習しております。それでは、1月分を報告させていただきます。

 

■「日本トランスオーシャン航空機内誌 Caralway 11・12月号」(2023.11.1)

 今年のお正月は、コロナ禍以降久しぶりに沖縄から妹が実家に帰ってきました。JTAの航空機内誌の最新号が一番のお土産でした。今号は「新北風号」とネーミングされていました。

 この新北風は、沖縄の言葉では「(新)ミー(北風)二シ」と言って、秋から冬にかけて、大陸からのからっとした高気圧の風のことで、一年で最も心地よい季節かもしれません。今号の特集記事は「大原千鶴さんと沖縄おいしいものだけ巡り」でした。魚市場、沖縄そば屋、タコス専門店、ステーキハウス、泡盛酒場、琉球料理、八重山料理のお店を廻ってのレポートでした。

 中でも、パン屋さんは読谷村の「パン屋 水円」は特筆でしたね。座喜味城跡の近くにある古民家を再生したパン屋さんで、天然酵母パンを石窯で焼いています。敷地内には猫や鶏、ロバが暮らしています。飼っているのではなく、一緒に暮らしているのです。正にブレーメンの音楽隊の雰囲気なんです。このパン屋さんには2015年11月28日に伺っておりました。(ちりとてちんNo.143)ロバの名前は「わらちゃん」でした。島の林の中で暮らす、という幸せを感じさせてくれる店舗です。機会がありましたら、立ち寄ってみて下さい。(画像①)

 


(画像①Caralway 11・12月号)

 

 

■「加藤政洋・〈味覚地図〉研究会著 京都食堂探求」ちくま文庫(2023.11.20)中古本

 立命館大学文学部教員と近現代日本の食文化・外食産業を探求する同好会による京都内の「麺類・丼物」文化の研究本なのですが、全員が京都生まれ京都育ちではないだけに、客観的な現在の京都食文化を取り上げている好事例本でした。私は、京都の町食堂の丼で一番好きなのは「衣笠丼」なんです。残念ながら静岡県内の定食屋、食堂のメニューにはないと思います。

 123~127頁の「丼物の『都鄙問答』」に詳しく、レシピが書かれていました。「短冊状にきざんだ油揚げ(きざみ)と斜め切りにした九条ねぎをうどん出汁でさっと煮き、とき卵でとじて丼飯にのせたものだ。いわば、『きつね』の玉子とじである。『甘きつね』と称される、甘辛い出汁で煮いたきざみを用意している店も少なくない。食感をわずかに残す九条ねぎは、たっぷりと出汁をふくんだきざみをひきたてる薬味というよりは、その色合いとともに自らの具材としての存在を主張しているかのようだ。しあげに粉山椒がふられたり、小さな正方形の海苔がおかれることもある。」

 132~133頁に、一条馬代東入ルの「千成餅食堂」さんの「しっぽくとじ」と「木の葉うどん」の中身が書かれていました。「しっぽくとじ しいたけ(薄切り)、かまぼこ(ピンク細切り)、花麩、ねぎ、白菜、三つ葉、ゆず」「木の葉うどん しいたけ(薄切り)、かまぼこ(ピンク細切り)、油揚げ(きざみ)、揚げ玉、ねぎ(斜め切り)、きざみのりを玉子とじ」…さて、最後にもうひとつの謎解きをしておかなくてはなるまい。『木の葉』とはなにか。玉子でかやくをとじたうえに『きざみのり』がこんもりとおかれることから、それを木の葉に見立てることもできなくはない。けれども、『きざみのり』をおかない店もなかにはある。」(画像②)

 


(画像②京都食堂探求)

 

 

■「姜尚美著 何度でも食べたい。あんこの本」文春文庫(2018.3.10)中古本

 冒頭に、「‥平成12年(2000)の秋、関西の雑誌の編集部にいた時のことだ。取材で伺った、ある京都のお店の上生菓子を食べて、手のひらを反すように、私はあんこに開眼してしまったのである。こんなにおいしいものをどうして素通りしていられたんだろう。」とあって、それから京都、大阪、関西、そして全国の「あんこを知る旅」を続けられ、現在の「あんこ」をまとめられた労作でした。

 「‥素晴らしい自家製あんを作る店、古くから続く製あん所、吟味した生あんを加工する店、小豆以外の豆を使う店、和菓子屋さん、パン屋さん、雑穀屋さんまで、すべて等身大の日本のあんこの現在の姿として組み入れた。」とも書かれているが、本当に現在、入手出来る資料を十分に把握された内容で素晴らしかったです。

 204~211頁に、盛岡市民のソウルあんこ「福田パンのあんバター」が紹介されていました。私は、2017年10月と2018年10月に盛岡へ行った際、この福田パンを大量に購入してホテルの部屋で試食した記憶があります。あんバターパン食しました。本当に美味しかったです。現在は税込み176円になっているそうですが、それでもコスパは最高ランクだと思います。204頁に書かれている「注文を受けてから竹のへらでコッペパンにクリームを塗っていく。塗る人の好みによって量が多少変わってしまうとか。この日はクリーム塗って30年のベテラン従業員さんがフル稼働。過去にはこの道40年のおばあちゃんもおられて、再雇用をお願いしたら『そろそろやめさせてください』と言われてしまったそうだ。」もう本文を読まなくても、会社の内容、パンの内容が理解できますよね。(画像③)

 


(画像③あんこの本)

 

 

■「平松洋子・姜尚美著 遺したい味 わたしの東京、わたしの京都」淡交社(2021.11.24)

 「月刊なごみ」の2019年1月号から2020年12月号に連載されていた「東西おいしい往復書簡」に加筆修正された単行本でした。東京都内は平松洋子さんの担当、京都市内は姜尚美さんが担当、各12軒の「遺したい味」と「遺したい店」の取材記事でまとめられています。

 6~13頁は東京・神田須田町の「神田まつや」さんでした。神田須田町といえば、2014年10月から「神田連雀亭」という定員38席の小さな寄席があります。二ツ目の落語家・講談師専用の定席なので、若手の噺をじっくり聴くために定期的に通っておりました。コロナ禍中に三ヶ月程休館、高座全面にアクリル板を設置、定員19席になりました。第5類となってから定員は戻ったのですが、アクリル板と入場時の体温測定器が撤去されたのは、2023年11月28日でした。そんな訳で、このお店の前は何回も通っておりました。

 10頁の記事です。「…『神田まつや』は地面に根が生えたような昭和の仕舞た屋で、東京都の歴史的建造物に選定されています。暖簾を払って引き戸をからり、いつもの清々しい空気が広がってくる。飴色の光沢を放つ木の長卓と椅子が整然と並ぶ、のびのびとした入れ込みの店内。右奥、ガラスの間仕切りの向こうで、職人がそば打ちに精を出しています。壁に掛かった年代ものの大きな木のこね棒、これまた年季の入った柱時計。自然光と間接照明が混じり合う店内をお運びの女性たちがてきぱきとした様子で行き交う一全員が映画の登場人物に見えてきて、『神田まつや』ならではの様式美を感じます。それでいて、いいお湯に浸かっているようななごみの情景です。」

 14~21頁は京都市・上七軒の「上七軒ふた葉」さんでした。「…私はこの店のだしの味が好みです。自分の家のだしと似ていながら、家では決して出せない味なのです。中島さんによれば、『たっぷりのかつおと昆布で、さっとだしを取るのがこつ』だそうです。この店のうどんには珍しくれんげが添えられているのですが(舞妓さんがうつわから直にだしを飲むのをいやがられるので添えているそうです)、深々としたうつわに惜しみなく注がれただしをれんげですするたび、体に滋養がたくわえられていくような安らぎを覚えます。」(画像④)

 


(画像④遺したい味)

 

 

■「久住昌之作・久住卓也画 古本屋台」集英社 (2018.4.10)中古本

 とてつもなく面白い漫画ではないのですが、マニアックでした。「文字通り、屋台で古本を売っているこの店は、オヤジが一人で切り盛りしている。珍本奇本が揃う、マニアにはたまらない店だ。本と酒を愛する一人のサラリーマンもまた、古本屋台にどっぷり浸かっていく一。」このコピーに誘われて購入してしまいまいました。「‥夜ふけになるとどこからともなく現れる幻のような古本屋台。白波お湯割り一杯100円。おひとり様一杯限り。珍本奇本あり〼」

 なにしろ登場する書籍が、松本隆著「風のくわるてっと」、海野十三著「火星魔 冒険科学小説」、つげ義春著「つげ義春作品集」、赤瀬川源平著「夢泥棒」、古今亭圓菊「背中の志ん生 落語家圓菊 師匠と歩いた二十年」、安部公房著「砂の女」、吉村昭著「漂流」、石田千著「月と菓子パン」など44冊。もうこれだけで、マニアックな漫画ではないでしょうか。(画像⑤)

 


(画像⑤古本屋台)

 

 

■「㊙情報取材班編 お客に言えない食べ物の裏話大全」青春出版社(2019.11.1)中古本

 もう何十年も前だと思いますが、この出版社からは多くの雑学本、話のネタ本、裏話本が発行されていて、落語のまくらに使わせていただいたり、創作落語の参考にしていたことを思い出しました。そんなわけで、久しぶりの裏話本でした。

 76~77頁は、「梅干しがどんどん甘くなっている裏事情」でした。「…梅干しは単純に梅漬けを干したもの。それに対して、調味梅干しは、梅干しに糖類、食酢、梅酢、香辛料などを加えたものである。そのうち、評判が芳しくないのは、近年、増えてきた調味梅干しのほうである。調味梅干しは、手づくりの梅干しに比べると、酸味も塩分もかなり少ない反面、手づくりの30倍近くの糖分を含んでいる。そのため、手づくり梅干しの酸っぱさを知る世代には、調味梅干しには見向きもしない人がいる。そのいっぽうで、梅干し本来の味を知らないで育った若い世代は、すでに調味梅干しの甘い味に慣れ親しんでいる。…」

 201~202頁は、カレーといえばなぜジャガイモ、ニンジン、タマネギなのか」でした。「…カレーの本場であるインドや東南アジアには、これら三種の野菜が同時に入っているカレー料理はまず存在しない。ジャガイモ、ニンジン、タマネギは、日本独自のトリオなのである。…そもそも、これら三種の野菜は、いずれも明治になってから伝わったもので、安定して栽培されるようになったのは明治も半ばになってからのことである。その後、カレーライスがさまざまにアレンジされていくなか、明治の終わり頃になって、三種が一緒にカレーに入れられるようになった。」(画像⑥)

 


(画像⑥食べ物の裏話大全)

 

 

■「北尾トロ著 夕日に赤い町中華」集英社インターナショナル (2019.6.10)中古本

 町中華がテレビの料理番組の定番となったのは、いつ頃からだろうか?「1000円の壁」なんて言われているラーメン業界と次々と新規ラーメン店に行列されている方は、この書籍を読んでいただきたい。著者と町中華探検隊による食文化レポートです。

 80~100頁に、「日本人の食生活を変えたアメリカの小麦戦略」として、終戦後の1950年代に、和食ではなく中華蕎麦店が急激に全国に拡大していったのは、どんな理由があったのか、というレポートでした。「…アメリカが力を入れていたのは給食でのパンの普及や、家庭に洋食を取り入れさせて、日本の伝統食では影の薄かった小麦粉の人気を高め、日本への輸出量を増やすことだった。ラーメンだろうがうどんだろうが、小麦が消費されればいい。製麺所よ、がんばって営業してくれ。そんな感じか。ラーメンがその期待に見事に応える。もともと人気があり、ポテンシャルが高い。原料さえ確保できればこっちのものになる。安く提供できるなら鬼に金棒。ラーメンと焼き餃子を軸とした店に勝算が出てきた。本来なら王道だったはずの米は相変わらず入手が難しい。ならば中華で。勝負をかけたかった人が、このときとばかりに全国各地で鬨の声を上げた。こうして1950年代なかば頃、最初の出店ラッシュが起きたのである。…」

 236~239頁の「残っている町中華はなぜつぶれないのか」では、「…地域密着型ですでに客のついている町中華は、有名になりたい願望がない。だから宣伝費など一切かけないし、地元の人に支えてもらえたらそれでいいと思っている。今流行っている店の多くと考え方が逆で、ときどき取材を受けるようなことはあっても、淡々とした日常にすぐ戻るのを良しとするのは、有名になれば他所からわざわざやってくる客が増え、店にとって大切な常連客が入りにくくなってしまうからだ。町中華がもっとも恐れるのは常連が離れてしまうこと。行列なんてジャマなだけまのだ。まさに名より実をとる精神。徹底して、これを実践した店が、その地域で生き残っているのだ。」

 この出版物は、ホームページに掲載された内容に大幅に加筆されてペーパー化されているが、ネット上のグルメサイトのコピー記事や販促コピーよりは、まともに調査して書かれているので、飲食業関係の方は目を通して下さい。(画像⑦)

 

 


(画像⑦夕日に赤い町中華)

 

 

 

 

2024.2.26 清八



38年間、お付き合いしている長野市戸隠の森の喫茶店です。


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