「ちりとてちん」?
実は落語の演目です。三味線の音色から取られた“微妙な”食材(?)「ちりとてちん」。
噺家の目から見た“食”の話題を取り上げてもらいます。さて、どんな話が飛び出すのやら・・・

「落語のネタ帳・食べ物編 その19 三年ぶりです」

 私が学生時代に覚えて今でも喋っている演目は、20席程あるのですが、一番好きな噺が「ぜんざい公社」です。新作ですが、明治時代の作で、その時代によって変化してきました。あの舛添問題、東京都知事選の時、改作をしました。「舛添版・ぜんざい公社」公開しますね。
 12月になりますと、一年の重大ニュースが選ばれますな。海外では、トランプ次期大統領ですな。リオのオリンピックもありましたな。小池新都知事さん、1000万もするような鶴の訪問着と金の帯でした。あいにくの雨で、洗い張りに100万円かかったそうですね。いろいろと、話題を提供してくれますね。ところで、あの舛添さんは、どうされてるんですかね。あの湯河原の別荘、まだ売ってなかったと言うてましたが。私も大学の先生とか、元政府の要人とかの講演会に行くことがあるんです。講演会の後、立食パーティがありまして、この間、霞が関の国家公務員さんと同席させていただきました。ここだけの話にしてくださいね、と釘を刺されておりましたが、新年度の予算編成で困ってんのやそうです。実は、安倍さんに来年度、新・三本の矢という計画がある。その一つが、国営で始めることがあるっちゅうんですね。小泉さんの時に郵政民営化いうて、国営を民営化したんです。出るお金は減ったんですが、逆に入る金も減ってしもた。そこで、逆の発想なんです。民間でやっていることを国でやるようになるというんです。それ、どんなんですか?って聞いたら、例えば国営のうどん屋とか、国営の喫茶店、国営の回転寿司、国営のパチンコ屋、国営のキャバクラ…これは無いですね。国営のぜんざい屋、ぜんざい屋ちゅうたら、どんなんですか?聞いたら、「ぜんざい公社」言うてました。

ひょっとしたら来年の四月から全国にオープンするかもしれません。
「えーっと、このあたりやで。この間、回覧板で廻ってきたで、近日開店!ぜんざい公社!あなたの町にも、ぜんざい公社!…この角を曲がると…、あったがな。大きな建物やな。八階建て、大きな看板があるがな。ぜ・ん・ざ・い・公・社。入ってみたろかな。うわぁ、自動ドアや、受付があるがな。あの、すんません」「はいっ」「ここ、ぜんざい公社ですか?」「はいっ、当方は、ぜんざい公社ですが…」「あの、ぜんざい、一杯、食べたいんですが…」「はい、ありがとうございます。お召し上がりになって、いただけます。それで、ぜんざいですが、並みになさいますか?それとも特別製になさいますか?」「いろいろと、あるんですね。特別製ちゅうと、どんなんですか?」「はいっ、特別製になりますと、北海道から小豆を取り寄せます。奄美大島から黒糖を取り寄せます。それから、国産のもち米を使うことになっております」「割と大層でんな。それ、すぐ間に合いますか?」「手続きの関係で、約三か月、待っていただきます」「今、食べたいんで、並みで結構です」「はい、わかりました。それではこの番号札をお持ちになって、一番の窓口へ行って、手続きをお願いします」「何ですか?」「いぇ、並みのぜんざいですので、一番の窓口で、手続きをしてください」「あぁ、わかりました。国営ですね」「あの、受付で並みのぜんざい食べたい、言うたら、一番の窓口で手続き、言われたんですが…」「はいっ、あのカウンターにボールペンと申込み用紙がございますので、住所・氏名・生年月日等、くわしく書いてくださいね」「はぁ、これ書かないとも食べられないんですか。国営ですか?
わかりました。……、これで宜しいでしょうか?」「お待ちくださいね、確認させていただきます。えぇ、大阪市浪速区日本橋三丁目十二番地、舛添羊一…、舛添さん!貴方、この頃、テレビで見かけんようになったと思たら、大阪に越してはったんですか?」「あの、わたし、違うんです…」「そやかて、舛添って…」「私はね、羊一の羊は、羊羹の羊、なんです」「あぁ、吉田羊の羊、ですね。失礼致しました。それでは、舛添さん、貴方、マイナンバーカードは、お持ちですか?」「今日は、ぜんざい食べに来たんで、持ってまへん」「何か、身分を照明できるもん、パスポートやとか運転免許証…」「何にも、持ってまへん」「困りましたな。わかりました。今のところ貴方お一人ですので、戸籍係りに調べてもらいますね…。ご本人かどうか…。はいっ、確認が取れました。確かに実在しておられます、で、今日は、貴方ご自身がお食べになるんですね…」「当たり前やがな。こんなもん、代理人雇うてもしゃあないさかいね」「舛添さん、実印、お持ちですか?」「持ってないですよ。ぜんざい、食べんのに」「わかりました。ここに、拇印をお願いします」「これで、よろしいですか?」「はいっ、ありがとうございます。これで、お食べになっていただきますが、この廊下の突き当たりに銀行の出張所がございますから、そこ行って、書類作成の手数料をお願いします」「えっ、これ、お金、いるんですか?」「あのぅ、一番の窓口で、並みのぜんざい食べたい、言うたらね、何やら書類書かされて、ここで手数料払え言われて来ましたんや。その手数料いうんは、ナンボですか?」「150円です」「150円も、取んの?」「ほな、200円、ここ、置きますから…」「あの、舛添さん、貴方、お釣りの50円、おいりですか?」「おいりですか?って、おいりですよ」「もし、何でしたら、東京オリンピックへ、ご寄附を…」「そない言われたら、結構ですわ」「あのぉ、銀行で手数料払うて、これ領収書です」「はい、ありがとうございます。舛添さん、もう一度、銀行の窓口に行って下さい…」「はいっ?」「もう一度、行って、ぜんざいの代金をお支払ください」「あのね、一遍言おうと思うてましたわ。おんなじ所、行かすんやったら一遍に言いなはれ。あんたは、よろしいで…。そこ座って、あそこ行け、むこ行け、言うだけやさかい。行く、私の身になってみなはれ。払います、払いますよ。それで、ぜんざいの代金というのは、ナンボだんねん」「2500円です」「えっ、私の頼んだんは、並みですよ。特別製ちゃうんです…」「ですから、2500円…」「はぁー、参考のために伺いますが、特別製は、ナンボだんねん」「特別製は、25000円です…」「…25000円、止めます、キャンセルします。民間のぜんざい屋へ行きますわ…」「止める、キャンセル、お食べにならない?」「お食べになりません」「舛添さん、貴方、こういう事、ご存じですか?当ぜんざい公社とは、既にぜんざいの売買契約が成立しております。ここで、お止めになりますと、ぜんざい法第三条第一項、契約不履行により、懲役三週間…」「食べます。払います。あほか、何で、ぜんざい食べに来て、刑務所、行かなあかんの」「速やかに、払ってくださいね…」「はいっ、払うてきました。これで、ぜんざい、食べさせてもらえますか?」「はいっ、お食べになっていただきますが…、舛添さん、貴方、このぜんざいに、お餅、入れますか?」「ぜんざい、と言うたら、お餅ですから、入れてください」「はいっ、わかりました。で、このお餅なんですが、生でお食べになりますか?それとも、お焼きになりますか?」「できたら、焼いてください」「わかりました。で、お焼きになるのは、ガス・電気・炭、どれになさいますか?」「また、いろいろと手続きが違うんでしょうね?」「いぇ、どれでも一緒ですが…」「一緒やったら、どれで焼いてもろても結構です」「舛添さん、手続きは同じなんですが、お焼きになるという事になると、消防署の許可がいります。五階に出張所がございますから、この書類に火気使用の承認印をお願いします…」「焼かんでええわ、焼かんで…生でかしるわ」「お焼きに、ならない?」「お焼きになりません!」「生で、お食べになるのは、舛添さん、貴方のご自由なんですですが、生でお食べになるという事になると、医師の診断が必要になります。最近、ノロ・ウィルスが流行ってますので…。七階に診療所がございますので、そこ行って、健康診断を受けて下さい…」「…七階やて、五階にしといたら良かった。…エレベーター、エレベーターっと、何々、健康増進のため階段をお使い下さい…。七階ね…、あぁ、しんど。ここやな、診療所は。先生、先生、いてはりますか?」「誰や?患者か?」「患者やて…、どこも悪いとこ無いのに」「あぁ、さっそく診てやろうかな。はいっ、それでは服を脱いで、ここへ座って…。はいっ、大きく息を吸って、はい、吐いて…、はい、吸って、はい、吐いて…、はい、吐いて、はい、吐いて、はい、吐いて…」「死んでまうがな!」「大きな声、だすな!…別に悪いとこは無いようやな。…儲からんな。…レントゲン撮ろか?」「先生、何で、ぜんざい食べんのに、レントゲン撮らんなりまへんの?」「いやぁ、胃の中に何が入ってるやわからんやろ?この頃、ノロ・ウィルスが流行ってるからね。レントゲン、撮ったこと、あるやろ。こう、手をあげてな、そうそう、大きく息を吸って、はい、止めて…。さっそく診てやろうかな…。……えーっと……、お名前は、舛添羊一さん、でしたな」「はい」「私、この診療所へ来て、三週間なんですが、町医者を三十年程やってまんねん…」「へぇ」「長いこと、医者やってて、舛添さん、あんたぐらい腹黒い男、診たことおまへんで…」「先生、わたし、そない腹黒いですか?」「黒い、黒い、真っ黒やがな……。あっ、すまん。スイッチ入れるの忘れた」「そんな、アホな、しっかり診てや」「やり直し、やり直し…と。えーっと、別に悪いもんは入ってないな。…大丈夫!ぜんざい、食べてもよろしい」「ありがとうございます」「そうそう、ここの支払い…、ちょっと待ちたまえ。受付の女の子が隣のコンビニに買い物に行ってしまってね、計算する、計算する…えーっと、初診やな。健康保険証は?持ってないの…、十割負担ね。それから、レントゲン撮ったな。レントゲン代っと。消費税を足してと、しめて16200円、払うていけ!」「…、何で、ぜんざい一杯食べに来て、七階まで来て、16200円、払わんならんの…。あのぅ、これ診断書と領収書です。これで、ぜんざい食べさせてもらえますか?」「はいっ、お食べになっていただきます。この食券をお持ちになって、二階の食堂で、お願いします」「…二階、まぁ、えぇわ、二階やさかいなぁ。…うわーっ、えらい食堂やな。広いなぁ、国営やな。白いテーブルに白い椅子。えーっと、誰もいてへんで。誰も…、あっ、居た、居た。ちょっと、姉ちゃん、姉ちゃん!」「姉ちゃん、とは何ですか?国家公務員とおっしゃい!」「すんません。どうも。国家公務員さん、並みのぜんざい一杯、お願いします」「はいっ、かしこまりました。並みのぜんざい、ですね。しばらく、お待ちください…」「…どんな、ぜんざいやろな、楽しみやな。箸袋に、何か書いてあるな…。何、何、…今日も元気だ!ぜんざいが美味い…」「…お待ちどおさまでした。ぜんざいが参りました」「来た、来た…。うわーっ、大きな器で来たでぇ。さすが、国営、2500円やな。民間のぜんざいと違うわ。このフタを取ると、うわーっ、大きな餅やないか。さすが2500円やな、国営だけあって…。さっそく、いただこうかな。うわーっと、生やけど柔らかいで…、このお餅。美味しいやないか…。さぁ、このお餅の下には、甘い汁が入ってんのゃろな、この餅の下…、あれっ、餅の下に、甘い汁が入って無いやないか?ぜんざい、に甘い汁が無かったら…、ちょっと、国家公務員さん、国家公務員さん、この、ぜんざい、甘い汁がおまへんで…」「当方は役所です。甘い汁は、先に吸うております」
 長編で、お疲れさまでございました。この改作前の「ぜんざい公社」は13年前に掲載しておりました。前回、お読みになられた方は、「また、同じ噺?」と思われないで、今年まで長生きできたんで、「また、同じ噺が読めた」と喜んでいただけますようお願い申し上げます。実演のご依頼がありましたら、喜んでお受けいたします。それでは、お互い、良い年を迎えられますように。


2016.12.16 清八


38年間、お付き合いしている長野市戸隠の森の喫茶店です。


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