うまい料理を食べることは、人生最良の一場面といえる。 人生を料理に賭けてきた「三鞍の山荘」の今井克宏シェフが語る「Un bon plat」アン ボン プラ(うまい料理)。食卓や料理の話題を取り上げてもらいます。


「ビア・ホール」

 スイスに来てから、始めのうちは日本人がよりそうように一緒に行動していたが、昼の休けい時間とフランス語の学校に行くこと以外は、それぞれが行動を別にするようになった。それだけ、スイスでの生活に慣れてきたことになる。

 しかし、夜になるとなぜか同じビアホールに集まってしまうのである。ほどほどに「おなか」もすくので「ハンバーガー」を食べたり、スパゲティと仔牛のミラネーズを食べたりする。仔牛の肉がおいしいので「細切りのクリームソース」や「ヴィシネッツターラ(ウィーン風仔牛のカツ)」などがいつものメニューとなる。 スイスの名物のチーズフォンデュや、シュークルートなどは、自分の店でもメニューで出しているので、「ビアホール」ではちょっとした軽食気分のメニューを好んで食べたのである。

 
夜の食事は、夕方の5時すぎに店の食堂で食べるので、仕事が終わり「ビール」をのむ時間になると空腹になっているのである。アパートから通うようになっても、朝食は店の食堂で「ミルクコーヒー」とパン、ハードなチーズを食べ、これにも慣れてきて少しづつではあるが「日本人」から脱皮しているようだ。

 一時期は「マダム」に嫌われる程の「日本の食事」づくりも、だんだんと回数が少なくなってきている。それどころか、「チーズ」やパンや「ワイン」を持ち込んでくる人もいて、自然と「ワイン」を親しむようになってきた。ヨーロッパ生活のながい人ほどその「ケイコー」にあり、Mさんなどは「あまりごはんは身体によくないね」と「ごはん」を食べると「胃ぐすり」をのんでいた。

  スイスの「ビール」は軽くのみやすい。水がわりでのむので「コルク」に細工のしてある大瓶を買ってきて、残ったビールを「セン」しておけば味を変えずにしまっておけるのである。昼間でものむので自然と酒量がふえてくるが、それがあたり前になると、つい「ビール」を「グィッ」ということになる。日本と異なるのは、湿気がないので空気がさわやかで酔った気分にならないため、昼間の「ビール」につい「つき合う」ことになる。

  昼食夜食とも、食堂ではワインが出るのでアルコールの好きな人には最高だろう。と、思って見ているとそれは間違いであることに気がつく。ヨーロッパの人たちが食事のときに「のむワイン」は、食事のためのものである。飲む人は「グラス」に半分ぐらい注いでいく。
日本では、「ワイン」をのむということは、すなわちアルコール分を身体の中に入れることと考えられるが、ここスイスでは「食事のための」ワインであって、これはセットになっているもので酔うためのものではない。そのような意味を勝手につけて少しづつではあるが、「ワイン」をのみながら食事をするようにしている。

 仕事が終わってからの「ビール」は、これは酔うほどに楽しくなってきて仲間との会話もはづむのである。したがって量も増え、どのようにしてアパートに帰ったのかわからず、気がついたらベットの上に洋服のままひっくり返っているのであった。
軽い味でのみやすいビールも、こうなると「仕事」への情熱の足をひっぱってしまうのである。しかし若さは尊い「いやえらい」のであって、その夜もまたビアホールに足が向くのであった。



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