うまい料理を食べることは、人生最良の一場面といえる。 人生を料理に賭けてきた「三鞍の山荘」の今井克宏シェフが語る「Un bon plat」アン ボン プラ(うまい料理)。食卓や料理の話題を取り上げてもらいます。


「アパート

 アパートは職場から歩いて30分くらいのところにある。店の支配人のマダムが管理人となり、スペイン人を使って「そうじ」をしたり、「ベッドメイク」してくれたりするので恵まれたアパート住まいであった。

 カラフルな色の市内電車で通うことも出来たが、都合良くくれば乗るし、来なければ歩いて丁度良い場所にあった。
秋岡さん、河崎さん、Mさんはドイツで2年ほどお菓子を勉強して私たちより1ヶ月ぐらい後にカジノレストランのパティシェリーに入ってきた人で、ドイツ語が「話せる」人であった。

※イラストはイメージです

 都合、4人の日本人が住むことになったアパートは4LDKぐらいの「スペース」があり、広い部屋はいつもきれいに「そうじ」してもらっていたので快適な生活であったが、下の階に管理人のマダムがいるので、いつも見張られている感じはあった。

 日本人が集まって「ゲーム」をやったり、食事を作ったりすると、どうしても楽しいパーティーになってしまう。
つい「ハメ」を外して騒ぐものだから、翌日店の方にエス・ワイルさんがやって来て「ココハ、ニホントチガウ。パーティー、ヤッテハダメネ。ギターデ、ウタワナイコト。」

 つい酒が入ってくれば、下手な私のギターの「バンソー」にあわせて「チャンチキ、オケサ」を歌うやつがいて、賑やかすぎたのがいけなかったのである。

 日本人が集まると「スキヤキパーティー」となる。食器道具を用意すると、一応、食事は店ですることになっているので、安い「洗面器」を買ってくる。最初から食器道具として用いればこんな便利なものはない。「水たき」もできるし、スパゲティもゆでられる。中でも人気があったのが「水たきのようなヌードルスープ」である。「スキヤキ」は「ショーユ」を使いすぎるのと、部屋の匂いが消えないので、あまり出来ないのが残念であった。

 「ごはん」は鍋を用意したが、使用しないときはロッカーの中にしまっておくことにした。「ごはん」に「水たき」や「スキヤキ」となると「香の物」…「おしんこ」がほしくなる。キャベツやキュウリ、ニンジンを細切りにして塩もみして「一夜漬け」にする。これもエキサイトしてくると「ヌカ漬け」がいいねと誰かにさそい水をむけられると「パン粉」で漬け物をつくったりする。

 日本食が作れる、食べられるとなると、次から次へと献立がひろがり、人が集まる。やがてパーティーになるという結果は、管理人を困らせることになるのであった。

 「ヌカ漬け」「塩から」はさすがに部屋の中やロッカーに入れるわけにいかず、「ベランダ」に置くことにした。マダムにみつからぬよう器を並べその上にボール紙をのせ、小さな植木鉢を置く。こんな細工は一日で見やぶられてしまったが、発酵する前であったのでそれが「何であるか」はわからなかったのである。

 不思議なもので、日本食を食べなければ「がまん」はできるのであるが、一度食べると「食べたくて仕方なく」なるのも日本人としての「あたり前」の食欲なのであろう。
同じ仲間のうちでも「がまんできる」中谷さん、河崎さんと、出来ない野中さんと私とが「コンビ」を組んで行動するようになる。秋岡さんやMさんは「どちらでもよい」方で参加したりしなかったり、マイペースであった。

  しかし、「カケ事」…「ポーカー」は別であった。「カード」は全部オープンされた方が面白く、全員参加の方が迫力があって「ゲーム」はエキサイトするし「カケ金」も大きくなる。「カケ事」は、時間も忘れ「仕事」も考えず、「コッパラターミ」とどなられた昼のことなどすっかり忘れることができたのである。日本食に必要な調味料は、それぞれが日本の留守宅や親もとから送られてくるので困らなかったのである。


BackNumber | ホームへ | 三鞍の山荘のページへ



Copyright © 2024 Salt.com All rights reserved.