うまい料理を食べることは、人生最良の一場面 といえる。 人生を料理に賭けてきた「三鞍の山荘」の今井克宏シェフが語る「Un bon plat」アン ボン プラ(うまい料理)。食卓や料理の話題を取り上げてもらいます。



幕の内弁当



※写真はイメージです

 ジュネーブからパリへのTGVの中で食べた幕の内弁当はすこぶる評判が良かった。ジュネーブにある日本食材店「ミカド」のマスターは、元フランス料理のコックで、スイス人の奥さんと結婚してから「寿司」のテイクアウトの店を出店した。日本から弟もやってきて、兄弟の他に3〜4人の日本人を使っていて結構繁盛していた。店で売るテイクアウトの寿司の他に、日本関係の大使館や領事館への出張料理などもやって、客の前で握る寿司の「モギ店」なども好評との事であった。このマスター兄弟とは友達で、スイスに行くと必ずジュネーブに行って逢うことにしている。

 TGVの幕の内弁当は、この「ミカド」に頼んで作ってもらったのである。食べているお客様は「フランス料理 今井」料理教室の「ヨーロッパ食べ歩き」のメンバーである。約25名の団体ツアーは男性が少なくわずかの6名。あとは女性でにぎやかで、そして華やかである。

 チューリッヒ、ベルン、ローザンヌ、ジュネーブと、スイス料理をたっぷりと食べた3日間。そろそろこの辺りで日本の味をと、こっそりと「チリメンジャコ」や、「味噌づけ」や「梅干し」等を持参したのである。「ミカド」のマスターにお願いして、新鮮な鮭の塩焼きや煮物等を加えて作ってもらった弁当は、TGVの中の「食堂」ではない客車の中で「一斉」に「箸」を持った群集に食べ尽くされたのである。幸いに一列車のほとんどがうめ尽くされていたが、それでも他のお客様も乗り合わせていて、「カメラ」におさめているアメリカ人もいる。「200キロ」のスピードを表示している車中で幕の内を食べるシーンは、企画の中ではそれ程深く考えていなかったが、それを目の前にすると少しばかり「やり過ぎ」かなと反省の念をもったほどである。しかし「おいしいね」「うまいなー」「やはり日本人はこれが一番よ」「死んでも良い」なんて物騒な声も聞こえたが、にこやかに「食べた」満足感をあらわしているご一行様を見ると日本人は「やっぱり日本人」なのだ。外国旅行が簡単にできるようになったとはいえ、日本から一歩出ると「ふだんの食事」から離れたショックがすぐにストレスとなってあらわれるのである。

 「あの時のTGVの中の幕の内弁当、おいしかったですね」…この旅行に参加された方と久しぶりにお遭いした。15年前の「幕の内の中身」を覚えていたのである。オプションであったが、この方は「たしか三ツ星レストランで食事をされていたのに…」その店の料理の話はついに話題に出されなかったのである。

  「幕の内弁当」万歳!

  「味の思い出」はすばらしいものである。

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