うまい料理を食べることは、人生最良の一場面 といえる。 人生を料理に賭けてきた「三鞍の山荘」の今井克宏シェフが語る「Un bon plat」アン ボン プラ(うまい料理)。食卓や料理の話題を取り上げてもらいます。



韓国料理



※写真はイメージです
 60才までの私は(現在66才)食べることが第一のシュミであった。朝食を食べながら昼食、そして夜の食事は…と、次の食べることを考えるのが習慣となっていた。これには「こだわり」があって「何でも食べれば良いのではなく、はっきりとした理由をつけて食べる」のである。「山荘」「オーベルジュ」のお泊まりの出来る宿の仕事をするようになってからはひかえめになったが、「旅行」に出かけるのも大切なことで、しかもそれは「食べる旅」であって名所旧跡などどうでもよかった。

 ある時は「韓国の味」に熱中した。「焼肉」「キムチ」「ビビンバ」「どじょう汁」「参鶏湯」など食べまくったのである。4年連続、正月は「ソウル市」にいた。「一日一組のレストラン」をやっていたのでスケジュールは簡単に取れた「予約」を受けなければ良いのだから…あたり前だが…。 でも、これには「こだわり」があった。日本人は、正月は皆「おせち」を食べよう「フランス料理」は食べないでください。このようなスローガンのもとに自分はソウル市に行って韓国料理を食べていたのだから言い訳もあてにならないが、「この間に食べたい」…がやたら実行させたようだ。

 ソウル市のホテルは「ロッテホテル」を常宿とした。これも「こだわりで」泊まるところも「良いホテル」「良い宿」が大切であった。旅行は食べるだけでなく気持ちをリラックスできなければならない。けっして贅沢をするのではなく、私の考えの中では「選ぶこと」、これが第一条件なのであった。次にパートナーである、言い訳がましくなるが、私の妻は和食党である。したがって油っぽいもの、とくに肉は好まない。そして匂いの強いものは食べない。中でも「にんにく」はとくにダメである。そうなると私のパートナーは限られてくる。当時小学6年生の息子が同行した。またある時は男性料理教室のメンバーが加わった。何回も韓国に来ているとはいえ、言葉がわからないのでいつも通 訳を頼んだ。とくに旅行会社に頼んで「食べる」ことを中心にするので、その方にくわしい人を選んでもらった。「買物」はしません。ということもつけ加えてもらった。

 韓国料理の中でも宮廷料理は圧巻であった。たくさん並べられた料理の一品一品が日本料理の原点であるような気がした。味がこれまたすばらしく韓国料理のおいしさを堪能したのである。「どじょう汁」はずいぶんとこれを作る店を探したのである。ソウル市内では見つからず、一時間ほど車で走ったところまで出かけていって食べることができた。煮込んで骨は取り除いてあるので「どじょう」の形はないが味が実に濃厚で、入っている野菜もおいしかった。

 気に入ったのは「参鶏湯」。これをスペシャルとして食べさせてくれる「村」まで出かけた。車で2時間たっぷりとかかったが、この料理ほど、「なるほど『味を創る』方法としては最高の技(わざ)なのだろう」と、しばらく「鍋」の中をのぞき込んだものである。地肌の黒さは気になったが、薬になるという「ウコッケイ」の腹の中に、朝鮮にんじん、もち米、野菜を詰め込んである。「丸」のままだからダイナミックである。「ハシ」で煮込んである「とり肉」をつまみ、塩をつける。またはキムチに包んで食べるのである。食べていきながら骨をくずしていく。骨は「つぼ」の中に取り出していくと鶏の腹の中に詰めた野菜ともち米が煮汁の中に混ざり、「おじや」のようになる。これにキムチをたっぷりと入れて「ふうふう」言いながら食べるのである。味は作るのではなく、この伝統ある料理は創られたのである。 通訳の話によると「二日酔」にはもってこいの料理と聞く。そんなとき食べたんじゃもったいないと思いながらも、実際に二日酔のとき食べたら本当にあっという間に治ったのである。

 「焼き肉」は骨つきをハサミで切ってもらいながら食べる。炭火で焼くのだからなおさらうまい。韓国の牛肉は「焼き肉」にするための肉質だと思う。 ありがたいのは「キムチ」の種類が豊富なのと、食べるとどんどん「おかわり」をしてもってきてくれる。田舎育ちの私にはこの上ない「ごちそう」である。

 60才を過ぎてからの私は、焼き肉はあまり食べなくなった。 韓国に行くチャンスがないのと、日本の国内ではあの「焼き肉」を食べさせてくれるところがないからであり、けっして年をとったからではない。「ぜいたく」をさせたかも知れない息子には、これは「お前の投資だからな、いつか「元」を返してくれよ」と伝えてある。

 …今まだその返済はされていない。

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