うまい料理を食べることは、人生最良の一場面 といえる。 人生を料理に賭けてきた「三鞍の山荘」の今井克宏シェフが語る「Un bon plat」アン ボン プラ(うまい料理)。食卓や料理の話題を取り上げてもらいます。



「フランス人の食卓」


 講演等で終了後、「それではシェフに何か質問ありませんか?」という司会者の問いかけに必ず「シェフは普段何を召し上がりますか?」また、「好きな食べ物は?」という言葉が投げかけられる。 「一日一回麺類を食べます。皆さんとそれほど変わりませんよ。好きな食べ物はゴボウの料理です。例えば、キンピラ、ゴボウの天ぷら、柳川鍋等大好きです」と答える。 次に、「フランス人はいつもあのようなテレビでみる、またはレストランで出されるようなものを食べているのですか?」このあたりの質問になると、終了の時間を確認して再び講演の続きとなる。

 40年前スイスを中心にして、5年程のヨーロッパ生活をしていた私のストレスは食事にあった。職場で作るのはフランス料理である。これは自分で食べるものではなく仕事の為に「作る」料理である。「味をみる」ために少しづつの量 は口の中に入る訳であるが、これは食べているのではなく「味かげん」をみるための動作である。このようなことをくり返していると、自分の身体、特に胃袋が「別 の料理」を食べたいという欲望に動き出す。これがストレスになり出すと、もう完全にグロッキー気味となる。自分自身に「日本料理」を食べさせなさいという指示が胃袋を中心にして出されるのである。すなわち、私のわずかな外国生活の中でもこのようなことがおきるように、フランス人と日本人の「食事」は大きく異なるのである。

 「オギャー」と生まれた時から吸い込む空気にまず違いがある。フランスではワインやチーズの酵母が、そして日本では味噌、醤油の酵母がある。これをずっと吸って育っていく訳であるから、食事の好みの違いが出てくる訳である。これから見るとお分かりのように、フランス人の食卓には必ずワインとチーズが付き、日本人の食卓には「味噌汁」があり、刺身でも「醤油」をつけないでは食べられないのである。フランス人の食卓にも「トマトサラダ」はあるし、「ナスの炒めもの」もあるし、海老や蟹のスープもある。すなわちその味付けが変わるだけである。スパイスや油や調味料が異なり、調理する技術が違うということである。

 しかし最近、日本人の食卓が洋風化されてきているので、若い人たちはどちらかというとフランス的な味付けを好むようになってきているのである。

 さて結論は…、「フランス人の食卓は地味なのですよ」。

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