うまい料理を食べることは、人生最良の一場面といえる。 人生を料理に賭けてきた「三鞍の山荘」の今井克宏シェフが語る「Un bon plat」アン ボン プラ(うまい料理)。食卓や料理の話題を取り上げてもらいます。


「祈り


※写真はイメージです
 調理場の中でも、それぞれの仕事内容によってわかれていて「ガルマンジュ」というところで仕込みされたものが「ソウシェ」に来て、焼いたり、揚げたり蒸したりして、料理に仕上げられる。料理にはつけ合わせが添えられるが、そのつけ合わせや、スープをつくるのが「アントレメチェ」である。「レストラン」のオーダーがグランシェフによって読みあげられると、それぞれの受け持ちの仕事が働きはじめるのである。

  音楽で言うなら「指揮者」である。グランシェフの一声が聞こえなかったらその音楽、すなわち「曲」にはついていけないのであるからミュージシャンとしては失格になる。職場において言葉が通 じないということは大変なことで、通じない職場での「働き」は相当にイメージの悪いものであったろう。 新人の私たちは、一日にしてノックアウトをくらってしまった感じである。 言葉が通 じないというくやしさ、むなしさに自分達の部屋に戻った二人は無口になっていた。

 午後2時から夕方の5時までの3時間が休憩時間になる。 職場に5時までに入ると、食堂に行き食事をする。疲れているので食欲がなかったが、マカロニにミートソースをかけた献立は麺の大好きな自分には満足の味であった。 パンとチーズは小さな切り身をもらい、「赤ワイン」はグラスに1/3だけ水がわりとしてもらった。 ディナータイムの職場は昼のランチタイムより忙しかったが「オロオロ、ウロウロ」にも慣れてきたのか周りを眺める余裕もでてきた。

  グランシェフのシュミットさんの静かな動きに対し、二番シェフ(スーシェフ)のルーフさんの仕事ぶりはオーダーが多くなればなる程加熱され「どなり声」も大きくなる。 「コッパラターミ」「カッカラーリ」「サンロー」「シハイセ」「ツァカ、ツァカ」「アレ、アレ」と次から次へと短い単語がルーフさんの口からほとばしる。秋岡先輩は「にやにや」しながら、「そーら始まったぜ」新人の私と河崎さんが、その言葉の訳を聞こうとすると、片目をつぶってみせ、「あんまり気にしない方がよいよ。あいつは病気なんだよ。忙しいと頭に血がのぼるんだよ。」

  気がつくと、ルーフさんのまわりにはコックが近づかない。アポランティ(見習い)が一人捕まって、さかんにどなりつけられている。

  秋岡さんの話によると、クリスチャンのルーフさんは、教会に行く日曜日は休日。この日は全べてのコックにとってリラックスできる日であるということ、また教会でのお祈りのせいか、月曜日から水曜日位までは、静かなルーフさんであるという。 祈りから遠ざかった金曜日、土曜日は荒れくるってしまう。とのことであった。

 ガラン、コロンと鳴る教会の鐘は、それぞれの人の心の中でその受け止め方で「すばらしい変化を」するものだとあらためて「祈ること」の大切さを学んだのである。

  仕事が終わり河崎さんと二人でビァホールに行く、疲れているが今の二人には大ジョッキでのこの一杯がなにより「くすり」となるのである。

 

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