料理に素材が必要なように、ジャズにも「音」という形のない素材がある。ジャズはいわば「音の料理」。
では「音の料理人」ROOこと佐藤 竜が調理する甘辛ジャズエッセイをお愉しみください。


“アーティスティックな料理の似合うミンガスの話・その2”

 今回は、“アーティスティックな料理の似合うミンガスの話―その2”である。アーティステッ クな料理が得意なチャールズ ミンガスのおすすめ第2弾は‥‥‥‥‥‥。

 チャールズミンガスが今からちょうど43年前、つまり1963年1月に料理した作品のことだ。この作品ができる1年前には、前回紹介した「テイファナムーズ」の説明で、「これは、ボクが今までに作ったベストの料理だ !!」と述べた(実はその料理は1957年の夏に作ったものだった)のだが、‥‥。今度は63年1月の料理を過去のベストな料理であると本人がいう。つまり、今度の料理が「テイファナムーズ」の料理よりさらに抜きん出たことになる。これは食欲をそそられる !!

 その料理の名前は、「THE BLACK SAINT AND THE SINNER LADY 黒い聖者と罪ある女」


(*1)

 ここで、チャールズミンガスとその時代背景について少し説明せねばならない。

 1950年代後半から黒人差別に対する反対運動や黒人公民権獲得運動などが、60年代を中心として全米各地で起こる。運動の成果 は64年に公民権法が上下院を通過成立することになるが、ベトナム戦争はなかなか終結しなかった。ベトナム反戦運動も高まる60年代は、黒人の大暴動が全米各地で起こるブラック パワーが炸裂した時代で、ケネディ大統領暗殺(64年)、マルコムXの暗殺(65年)、公民権運動のリーダーでノーベル平和賞受賞者のマーティン ルーサー キング牧師暗殺(68年)など、混乱の激しい時代であった。このような時期に自己のジャズを開花させたチャールズ ミンガスは、黒人の怒りを調理したものが多い。時のジャズのトレンドに捕らわれない調理法によって、独自のパワフルな料理を作ったのだ。

 ところで、怒りの料理人がなぜアーティスティックな料理ができるかが重要なのだ。ミンガスの料理は、偶然的な産物ではなく、少ない素材を使って独自の豪華な料理を作る構想が練られて作られたもので、彼の調理感覚のすばらしさが為せる技なのだ。

 さらにチャールズ ミンガス自身のことばによると「この音楽はダンスと鑑賞用に書いたものだ。ここにはさまざまな意味が込められている。‥‥(中略)‥‥ 心に浮かんだちょっとしたスタイルのことや些細なアイディアを元にして書いたのがこの音楽だ。わたしは正気だと呼ばれている社会に生きている。ただしそれは見方を変えるなら、囚われの身と同じだ。それを打開するためにはどうすればいいか。そのことを考えなければいけない。」といい、さらに「そうした考えの持ち主はこの社会にいる限り、狂人とされかねない。人生がどうあるべきかという考えを持ち続けるためには、そうした社会を打ち倒していかなければいけないのだ。そんなことを考えているわたしは頭がおかしいのだろうか?‥‥」(*2) といっている。彼は、自分を取り巻く社会の状況を把握し、自分を自覚し、人生を表現する道を模索していたのだ。

 真のアーティストは、真実の自己の内面 を稀に見る優れた才能によって偽りなく表現することができ る。それを食するグルメにはもちろん、絶妙な舌を持たないごく普通 の人にも彼の魂と非凡な技を堪能 できるのがスゴイ!!ぜひ、マナーを守って、お試しあれ !!!

 

註1 録音は1963年 1月20日 LPアルバム「THE BLACK SAINT AND THE SINNER LADY」ジャケットの表面デザイン
註2 LPジャケットの内面に書かれている本人のライナーノーツの中で述べられているものの抜粋で、訳者は小川隆夫氏。 

 

※佐藤 竜のプロフィールは こちら から。



戻る | ホームへ |



Copyright© MIZUTANI Co.