料理に素材が必要なように、ジャズにも「音」という形のない素材がある。ジャズはいわば「音の料理」。
では「音の料理人」ROOこと佐藤 竜が調理する甘辛ジャズエッセイをお愉しみください。


“アーティスティックな料理の似合うミンガスの話・その1”

 前回は、サウンドの香辛料が企業秘密になっていた頃の話だったが、今回は、料理にアーティステッ クな盛り付けと言おうか、造形的で色彩感が豊かで、食べる愉しみが増したり、眺めているだけで楽しくなる料理、味と共にそれを創造しようとする料理人の魂や感性がひしひしと伝わってくる、そんな料理があるが、そのひとつを紹介したい。

 チャールズ・ミンガス(*1)というジャズの 料理人の話だ。ミンガスの料理は、食通を唸らせる、非日常的な料理なのだ。彼の料理によって、グルメたちのイマジネイションは掻き立てられる。つまり、彼の料理は、イマジネイションの 中での抽象化であったり、具象化であ り、視覚化であるのだ。聴覚が視覚化するのだから、すごい !

 「音楽」と言う料理は、造り手の魂 を音によって表現する手段にもなって いるのだが、ミンガスのそれは、まさ しくバワーとなってぐんぐん迫ってくるのだ。


(*2)

 これから紹介する料理は「ティファ・ナ・ムード」というスパニッシュなメキシカン料理だ。これを作ったのは1957年のことだった。

 彼自身この料理のレシピ ? によれば、 「僕の人生にとって非常に憂鬱な一時期につくられたもの」と言っている。つまり、この時期彼は妻と離婚し、その精神的なダメージを癒すためにメキシコの国境の街「ティファナ」にやって来た。

 「予想された夢がティファナにある状態で、彼女を忘れるために、僕は妻無しにフライトしたんだ。 しかし、ティファナさえ 闘牛、jaialai(スペイン球技)、野性的で、取り締まりに甘い町で 想像することができたものは何一つ満たすことができなかった。
 気付くと、僕の口にテキーラ、塩、それとライムの刺激を私の鼻孔で感じた後に、僕は、音楽的にこの経験を生かしたいと考え、僕が僕の周りで感じ、見たものを構成して、作曲して再現しようと決めたんだ。‥‥‥‥ 」(*3)

 こうしてこの料理の数々が出来上がったのだが、この料理に妻と離婚した心の痛みは消えている。その代わりにあるものは、色彩 豊かで異国情緒たっぷりの極上メキシカン料理だ。

 1962年時点で、彼はこんなことを言った。「これは、ボクが今までに作ったベストの料理だ !!」(*4)

 

註1 チャールズ ミンガス(1922〜1979) ジャズジャイアントの一人。ベーシストで、多くのジャズジャイアンツとセッションする。
註2 ミンガスの名盤「ティファナ ムーズ」のLPジャケットの表紙。
註3 LP裏面の本人が述べた英文ライナーノーツから抜粋し、和文にしたもの。
註4 LPのライナー ノーツの見出しに「“THIS IS THE BEST RECORD I EVER MADE”CHARLIE MINGUS,1962」とある。

 

※佐藤 竜のプロフィールは こちら から。



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