料理に素材が必要なように、ジャズにも「音」という形のない素材がある。ジャズはいわば「音の料理」。
では「音の料理人」ROOこと佐藤 竜が調理する甘辛ジャズエッセイをお愉しみください。


“ジャズの香辛料・その2”

 前回に続いて "ジャズの香辛料" について語ろうと思う。今回は 鍵盤楽器ではちょっと不可能に近いスパイスの話である。ご存知の通 り、ひとつの音からオクターヴ上の同じ音まで12等分したものが「平均律」註1と言われるいわゆる半音12音で、それを使って音楽を作ることになる。誰でも知っているドレミファソラシという音階は文字通 り「階名(音階の名)」であって、「音名」註2ではない。12音の中で、半音2つの距離を全音といい、ドレミファソラシという音階は、音と音の距離(音程)で表すと 次のようになる。

 つまり、ドレミファソラシ(ド)の音階は「長音階」と呼ばれ、この音の階段は12音のどこからでもスタートできるので、長音階は12あることになる。ちなみに、明るい「長音階」に対して、次の「短音階」は寂しい感じ。それは、第3音までの音の流れで決定的となる。これも12音どこからでも出発できる。

 西洋音楽には、12の長音階(メイジャー)註3と12の短音階(マイナー)があるわけだ。カラオケで伴奏が自分の声の高さに合わない時は、キーを下げたり、上げたりできる。多分その機械は無段階に上げたり下げたりできるようだが、正式な音楽の高さは12段階でしか上げ下げできない。

 しかし、ジャズとか、民族音楽は半音の中間の音も表現する。それを西洋音楽の様式では記譜することがむずかしい。料理人の鋭く繊細な感覚は、レシピに表現することが難しいのと同じだ。

 さて、本題に移るとしたい。文頭で述べた「鍵盤楽器ではちょっと不可能に近いスパイスの話」註4というのは、オクターブを12等分してその一つが半音ということは先に述べたが、まさにそれで、ピアノなどでは半音の幅が最低の単位 だから、半音のさらに半分という音は表現できない。ジャズなどの黒人音楽は、ブルー ノートと呼ばれる音をよく使う。それがスパイスとなる。楽譜に表現する時は、ミとソとシの音を独自に半音下げた音がそうだが、実際には、半音とは微妙に音が違っている。

 "ブルース" という形式の音楽は、「ミ」と「ミの半音に近い下がった音」との両方を表現する。 鍵盤楽器ではこの「ミ」と「ミ」の半音さがった(フラットという)音を同時に、または装飾音符として使う。これがジャズ表現のスパイスとなるのだ。

 ドミソの主和音に、この「ミのフラット」と「ラ」をスパイスしてご覧なさい。最高の料理が出来上がる。

 

註1
1オクターブを12等分する平均律は、正確には「12平均律」といい、一般的であるが、他にも53に分けた平均律なども存在する。
註2
「ド」とか「ラ」とかいう名前は階段を昇る順序みたいなもので、音の名前ではない。音の名前は常に一定で、ハ長調の「ド」の音名は「C」で、何調になってもその場所の音名は「C」。階名の「ド」は1オクターヴ中に12もあるから、音の高さは階名では表現できないと考えた方がよい。音名は C C♯(=D♭) D D♯(=E♭) E F F♯(=G♭) G G♯(=A♭) A A♯(=B♭) B 以上、英語による。
註3
正確には、英語では「長調」のことをメイジャーといい、「長音階」は、メイジャー スケールという。同様に「短調」はマイナー、「短音階」はマイナー スケールという。12の長音階と言うのは、基音からドレミフアソラシを半音ずつ上げた長音階が12できるということ。
註4
電子鍵盤楽器では、半音を無段階な音程にすることができるものがある(弦楽器のように)。

写真:
カウント ベイシー(1904〜1984) カンザス シティ スウィングの代表的なビッグ バンド リーダー兼ピアノ プレイヤーで、ブルースの演奏に秀でており、アド リブは、シンプルな単音弾きで強烈にスウィングする。

 

※佐藤 竜のプロフィールは こちら から。



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